いのち(2) 


雪におしっこさせようと思って
庭に出て、階段を登ったら
窓越しに
眠っているドンを見つめる、けいたの姿が見えた


ベッドと向き合って
椅子に座って
前かがみになって
眠るドンを見つめながら
けいたは
一人で何を思っていたんだろう


好きな人が
愛し合っているのに
先に死んでしまうことって
どれだけ悔しいことなんだろう



その日の朝
ドンは目を覚まして
私が一日いなかったので、雪とけいたと一日を過ごして
そして
また、雪と一緒に眠って

けいたと雪のいる部屋で
次の日の朝
ドンは亡くなった



悲しいと思うことや
苦しくて泣いてしまうこと
好きな人と別れてしまって寂しいと思うことは、何度もあったけれど

人が死んでしまうということは
こういうことなんだ
と思った


泣きやんでも、どんなに笑えることや楽しいことがあっても
悲しみが
何度も同じ強さで押しあがってくる


時が経っても
何度泣いたとしても
「二度といなくなってしまった」
という事実は消えることなく
変わることなくて


冬がもういないことや
ドンが死んでしまったことは
いまでも、いつまでも
同じ色をした同じだけの強い悲しみで

生きていたときと
同じだけの鮮やかさと強さで

いつまでもいつまでも生々しく
何度も何度も
心の中に鮮やかな痕をつける



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いのち 


昔、雨の日に車が滑って
そのまま回転していた、その瞬間のことを思い出した

絵に描いたように、スローモーションで動く世界の中
ただ、隣の命が無事でありますように
どうか、運が私にありますように、と祈った


目を開けた瞬間の
祈ることしかできない気持ち



彼も、同じ気持ちだっただろう


まだ幼いふたつの命を守りながら
手の届かなかった、最愛の、自分よりも大切なその命が
どうか無事でありますように
神様、
どうか運がありますように、と


大きな音が響いて
痛みの中
目を開けた、その瞬間に
何もかもを捧げると

お願いだから夢であってほしいと

すべてが嘘であってほしいと

そうできるのなら
もう二度と
何も願わない


たったひとつのボタンを
神様は、どうしてかけ違えてしまったのだろう



私たちが欲しがっているもの
毎日の小さなdisappointmentやdissatisfactions

そのひとつひとつが
なんて浅はかで意味のないものだということを

人生は、こんな風にして突然終わるものだということを

この世で何よりも大切なものを
もう一度手に入れられるものなら何もいらないと思うのだということを

それ以外のものなんて
人生にとって何の意味もないものだということを


大事なものを手にしているとき
これさえあれば他に何もいらないと


私たちはどれだけ気付けるだろう

どれだけありがたいと思えるだろう

どれだけ大切にできるだろう






Rest in Peace, Radhika.
My deepest condolences to my dearest friend, Jerome, and to your children.


Radhika Angara Memorial Fund
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テンプルの中で 


テンプルの中には、亡くなった人たちの写真が山のように積み重なっていて
柱には、彼らを恋しがる言葉や、悲しみの声が溢れていた。
すすり泣く声や、黙って何かを見つめている人。
たくさんの死がそこにはあって、
それでも、テンプルの中には
死と同じだけの、たくさんの愛が溢れていた。

ひとつひとつの死は、みんなの愛情で包まれていて
泣く声や涙は全部、彼らを大切に思う人々から流れていた。
産まれてきてから、彼らはたくさんの素晴らしい時間を過ごして
だからこそ、こうしてテンプルにたどり着いたんだろう。


誰かがふいに、
「生きていることは素晴らしい!」
と叫んだ。


その声を聞きながら、それでも
死んでしまった人たちも、一度は生きていて
そして素晴らしい人生があったんだと思った。

それは、決して悲しいことじゃない。



私たちはいつか、必ず死んでしまう。
それでも、その日が来るまでに
私たちはたくさんのものを愛して、たくさんの人たちに愛されて生きる。

それが人生というものなんだと思う。


テンプルの中で、涙を流す人たちの声を聞きながら
私の愛する人たちのことを思った。
一緒にキャンプしている人たちや
いまこの瞬間、プラヤに散らばって元気に遊んでいる友達たちのことを思った。
キャンプに戻ったら、彼らがいて
私は、その体に触れることさえもできる。

その数はかぞえきれなくて
なんて美しいものを、私は持っているんだろうと思った。


世界に散らばっている、もう会わなくなってしまった人たち。
遠くに離れてしまった人。
いつか愛した人。
私の人生を変えた人たち。

もう二度と会えなくても
彼らがまだこの世界のどこかで生きていて
彼らの人生がちゃんと続いているということは
奇跡のように素晴らしいことだと思う。


私たちの時間は限られていて、私たちが使える時間にも制限がある。
私たちは、一時に限られた人たちとしか、関係を持つことはできなくて
それぞれの人生は、時と共に変わってゆくし
どうしても、誰か手放さないといけない時もある。
そしていつか死んでしまうとき、
私たちは、全ての人たちの手を離す。


そのことを考えながら
それでも
みんなと出会えたことを、とても光栄なことに思った。

人生の一瞬に、彼らの人生と私の時間が重なって
奇跡的に思い合って、愛し合えたこと。
そして、過去に出会ったたくさんの大切な人たちが、今でも世界のどこかで生きているということ。

死んでしまった人たちを思う、悲しみの中で
改めて、私の持っている、たくさんの美しいものたちのことを大切に思った。


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people who are alive, people who are gone 


In Temple, you hear so many cries and see many deaths
but there is so much love around each death
you miss them, because you had such a great time

yes, it is good to be alive
but the people who are gone used to be alive once and had a great life
that’s why they are there at Temple
you will die eventually too
and you will love so many and will be loved by so many until that time


and if you think of the people who are still alive
the people who you were camping with
the people who were on the playa

it must be countless
you could even see them
you could even touch them
what beautiful creatures


and the people who used to be in your life
the people who you used to love
the people who changed you life

they are still there somewhere out in a world
sometimes sadly, but sometimes happily
living their life
even if you may never see them again
they are still alive


you can hold onto only a certain number of people at the same time
you have limited time, limited resources and your life changes as time goes by
you sometimes have to let them go
Or you will have to let everyone go eventually
you will die alone anyway
you can’t take them with you


but I'm grateful I met them in my life
I'm grateful we loved each other at some point of our life

Temple always teaches me so



優しさの音 


Uberに乗って来る子のことを、マックスに似てるなぁ、マックスの子供版みたいだな、と思いながら見ていた。

車に乗り込んだ彼は、手を差し出して、「I'm Mike」と言って微笑んだ。
時間はもう朝の2時ぐらいだった。

私は1時からという回す知り合いのDJに行くのに寝坊していて、彼は、今から出かけるという私に、大笑いしていた。

しばらく、家族の話や旅行の話をしていて、不意に仕事の話になった。
彼は、自分は消防士だと言った。

「大学では救急医学を勉強して、今は消防車や救急車に乗っているんだ。」


「僕たちの世界は、20分の世界。
サイレンがなって、車に乗り込んで、倒れた人の元に駆けつけて、サイレンを鳴らして街中を走り、病院の緊急口に降ろす。
僕らは、その20分間に、全ての情熱と工夫と意識を集中するんだ。」


昔つきあっていた彼が、古い消防署を改造した部屋に住んでいた。
その部屋の真ん中には、床に穴が空いていて、柱が突き抜けていた。

サイレンが鳴ったら、消防士たちは一瞬で、その柱をつたって消防車へと向かう。
それで稼げる時間はたった数秒なのに、部屋のど真ん中の床に穴を開けてしまう、その心意気をすごいと思った。


「サイレンの音は、優しさの音なんだよ。」
と言った、メディテーションセンターの人の言葉を思い出した。

「みんながうるさいと思うサイレンの音は、人が誰かを助けに向かう、優しさの音なんだよ。」


その言葉を聞いたマイクは、真面目な顔をして、
「ありがとう。」と言った。


夜は更けていって、街にはサイレンの音が鳴り、
Uberは、私たちの人生を、二度と重ならない形でこうして触れ合わせていく。





画面の、その向こうの 


「誰とメールしてるの?」と言われただけで
彼女に全て話してしまうような
そんなところが好きだった


二者択一を迫られて
嘘をつかずに、ちゃんと私と終わらせようとする
そういう、馬鹿みたいに誠実なところが好きだった



電話の画面の向こうで
きっと今頃泣いているんだろうなぁと思った


彼女の元へと帰る車の中で
あのサングラスの下で

もう二度と触れることのできない私のことを思って
泣いているんだろうなぁと
切なく思った


スーツを着て会議を進める
悩みなんてまるでなさそうな、飄々とした彼が

子供みたいに泣くところを
涙をこらえて深呼吸をしながらオフィスをに入って行くところを
小さな目が、私を見つめながら真っ赤になるところを
何度も見た


手放さないとと思う、その思いだけで
胸が苦しくて、行き場がなくて
ただ泣くことしかできない
そんな思いを
私も知っている



ごめんね

こんな世界を見せてしまって

知らないでいるよりも
一度手にしたあとに、手放す方が
何倍も何倍も辛い



それでも、彼のことだから
そうやって許してくれた彼女のことを
これから何倍も愛するんだろう


私のことを思い出しながら
それでも愚直に誠実に

まるで
私と出会う前のように




電話の画面の最後の言葉を閉じて
部屋のドアを開けたら

2人で創り上げた
誰も知らない幻の世界の面影が残っていて


あぁ、
好きだったなぁ、
と思った



電話の画面越しに
何度もごめんねを繰り返した彼に
いつかまた、出会うことがあったら

I forgive you、と
言おうと思った






エメラルド色の、その瞳の奥を 


初めて、彼と寝た夜
あなたのことを思い出した

それは、夏の始まりの
熱気のこもった夜で

あなたと出会ったのは
まだ春始まって間もない
爽やかな、淡い白い午後だった


あなたとは、いつかはダメになることを分かっていた
私たちはあまりに違いすぎて
いつも、すべてが手探りだった


私たちの間にあった
言葉にできない
甘いしっとりとした空気

私をのぞき込むあなたの大きな緑色の目を
この世のどんなものよりも
愛おしいと思った


いろんな人が
「どうしてあの人なの?」
と言っていることを知っていた

それでも、
私たちがあまりに幸せそうにしているのを見て
まぁそれならいいか、と
少しずつ思い始めてくれていることも知っていた


あなたなりに
精一杯優しく
そして愛してくれていたね




初めて彼と寝たとき
泣きたい気持ちであなたのことを思った

もう、あなたの
あの不器用な愛撫を受けることはなく

私にキスをするために眼鏡を取る仕草も
私のために氷を砕く仕草も
もう見ることはないんだと思った


いつかくるべきだった時が来たんだと
熱っぽい空気の中で
ぼんやりと思った



いつまでもいつまでもいつまでも
覚えている

あなたの、優しくて綺麗な心と
硬い髪の手触り
眼鏡越しの大きな目と
毛布をかけてくれる仕草
温かいその体


そのエメラルド色の瞳が
いつか、私の腕の中にあったこと




太陽と水飛沫の中で 


「ちょっと下の方の川がどうなってるのか見てくるね」
と出かけたきり
2時間も3時間も戻ってこなかった私を探しに来て
ジャックダニエルボトルを抱えて、水に浸っている私を見つけて
「いつの間に手に入れたの?」
と笑った

川の真ん中に佇んで
いつまでも水遊びをしている私たちを眩しそうに見ながら
サンダルが流されないように、ずっと見ていてくれた


川岸には
キティちゃんのタトゥーを入れた、可愛いものが大好きな女の子と
私の水鉄砲の飛沫に笑う、キラキラとした妖精みたいなゲイの男の子たちがいて
ウイスキーを一気飲みして、「This is a good shit!」とつぶやく私を
可愛いと言って笑った


川の上では
クリスタルがタコスを作ってくれていて
「Thank you, Chrystal」と私が言うと
クリスタルのお尻を足の指先でつつきながら、シェルダンが
「Thank you for existing, Chrystal」
と言った


道端では
道に迷って、同じ場所に再び現れてしまった私たちに
花飾りをつえけた女の子と、緑のひげのメガネをつけた男の人たちが
「Try it again!」
と励ましてくれた


遠くで私たちを見つけて
「Those girls!」と叫ぶ声

みんながくれる
息が苦しいぐらいに強くて長いハグと
すれ違うたびに見せてくれる
太陽のような大きな笑顔


私たちの周りには
愛があふれていて
私たちは本当に愛されていて
どこにいっても、みんなが優しかった


この世界と
それを彩る妖精たちが
いつまでも幸せに
こうして笑っていられますように


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最後の夜 


最後に
まだ彼のことを好きな状態で
ああやって会えてよかった

幸せそうに、私のためにカクテルを作る姿を見ることができて
同僚のトッドやベンたちとも
会うことができて


夜中の1時に、手をつないでタクシーで帰って
一緒にシャワーを浴びて
眠る前に抱き合いながら
私と抱き合うことが好きだと言ってくれた


あの夜が、最後の夜になるなんて
私たちは知らなかったよね


予感のような、小さな悲しい塊が
次の日目を覚ました私の中にはあった



それでも
私が幸せだったように

あなたもきっと
幸せだっただろう

キラキラとした、あの世界を
見せてあげることができたことを
誇りに思おう


いつか
どんなに苦しくても
あなたが、その時間があってよかったと
人生を優しく振り返られるように



ありがとう

あなたと出会えたことも
私の人生の、一つの奇跡だったよ


I'll do anything to go back and re-do 


時間を遡って
あの瞬間をやり直せるのならば
何だってする


彼の言葉を聞いて
泣いた私は

もう一度やり直しても
きっと同じことをするだろう


それでも
もしももう一度やり直せるのなら

私たちは何だってするだろう