画面の、その向こうの 


「誰とメールしてるの?」と言われただけで
彼女に全て話してしまうような
そんなところが好きだった


二者択一を迫られて
嘘をつかずに、ちゃんと私と終わらせようとする
そういう、馬鹿みたいに誠実なところが好きだった



電話の画面の向こうで
きっと今頃泣いているんだろうなぁと思った


彼女の元へと帰る車の中で
あのサングラスの下で

もう二度と触れることのできない私のことを思って
泣いているんだろうなぁと
切なく思った


スーツを着て会議を進める
悩みなんてまるでなさそうな、飄々とした彼が

子供みたいに泣くところを
涙をこらえて深呼吸をしながらオフィスをに入って行くところを
小さな目が、私を見つめながら真っ赤になるところを
何度も見た


手放さないとと思う、その思いだけで
胸が苦しくて、行き場がなくて
ただ泣くことしかできない
そんな思いを
私も知っている



ごめんね

こんな世界を見せてしまって

知らないでいるよりも
一度手にしたあとに、手放す方が
何倍も何倍も辛い



それでも、彼のことだから
そうやって許してくれた彼女のことを
これから何倍も愛するんだろう


私のことを思い出しながら
それでも愚直に誠実に

まるで
私と出会う前のように




電話の画面の最後の言葉を閉じて
部屋のドアを開けたら

2人で創り上げた
誰も知らない幻の世界の面影が残っていて


あぁ、
好きだったなぁ、
と思った



電話の画面越しに
何度もごめんねを繰り返した彼に
いつかまた、出会うことがあったら

I forgive you、と
言おうと思った






エメラルド色の、その瞳の奥を 


初めて、彼と寝た夜
あなたのことを思い出した

それは、夏の始まりの
熱気のこもった夜で

あなたと出会ったのは
まだ春始まって間もない
爽やかな、淡い白い午後だった


あなたとは、いつかはダメになることを分かっていた
私たちはあまりに違いすぎて
いつも、すべてが手探りだった


私たちの間にあった
言葉にできない
甘いしっとりとした空気

私をのぞき込むあなたの大きな緑色の目を
この世のどんなものよりも
愛おしいと思った


いろんな人が
「どうしてあの人なの?」
と言っていることを知っていた

それでも、
私たちがあまりに幸せそうにしているのを見て
まぁそれならいいか、と
少しずつ思い始めてくれていることも知っていた


あなたなりに
精一杯優しく
そして愛してくれていたね




初めて彼と寝たとき
泣きたい気持ちであなたのことを思った

もう、あなたの
あの不器用な愛撫を受けることはなく

私にキスをするために眼鏡を取る仕草も
私のために氷を砕く仕草も
もう見ることはないんだと思った


いつかくるべきだった時が来たんだと
熱っぽい空気の中で
ぼんやりと思った



いつまでもいつまでもいつまでも
覚えている

あなたの、優しくて綺麗な心と
硬い髪の手触り
眼鏡越しの大きな目と
毛布をかけてくれる仕草
温かいその体


そのエメラルド色の瞳が
いつか、私の腕の中にあったこと




最後の夜 


最後に
まだ彼のことを好きな状態で
ああやって会えてよかった

幸せそうに、私のためにカクテルを作る姿を見ることができて
同僚のトッドやベンたちとも
会うことができて


夜中の1時に、手をつないでタクシーで帰って
一緒にシャワーを浴びて
眠る前に抱き合いながら
私と抱き合うことが好きだと言ってくれた


あの夜が、最後の夜になるなんて
私たちは知らなかったよね


予感のような、小さな悲しい塊が
次の日目を覚ました私の中にはあった



それでも
私が幸せだったように

あなたもきっと
幸せだっただろう

キラキラとした、あの世界を
見せてあげることができたことを
誇りに思おう


いつか
どんなに苦しくても
あなたが、その時間があってよかったと
人生を優しく振り返られるように



ありがとう

あなたと出会えたことも
私の人生の、一つの奇跡だったよ


I'll do anything to go back and re-do 


時間を遡って
あの瞬間をやり直せるのならば
何だってする


彼の言葉を聞いて
泣いた私は

もう一度やり直しても
きっと同じことをするだろう


それでも
もしももう一度やり直せるのなら

私たちは何だってするだろう



手を放す瞬間 

最後に、ああやって
何事もなかったかのように
みんなで、はしゃげてよかった

あんなに一緒に過ごしていたジュリアンも
マックスのときのことから知っているサムも
I miss you と言ってハグをくれたエイミーも
いつもの、笑顔の可愛いブリエルも


みんながいなくなったあと、
お酒が足りないとか、散々駄々をこねて
そうして
私を抱き上げて、グルグルと回して

ベッドに倒れたあと、目が回ったと責める私に
Me too、と、
息を切らしながら言った


優しいキスをして
私を見つめる
3センチぐらい先にある、目を見ていた

近くで見ると
瞬きという行為は、こんなに儚く
その目的は
何かをもっとよく見ようとする目的だけの
なんて切ない行為なんだろうと思った


暴れて、私が悲鳴をあげるくらいに
首元に散々に噛みついたあと、
す、っと体を離して
静かに
Time to go?
と聞いた

その
悲しみとやけくそさと
そして理性の、混ざった目を
忘れない


26歳の、私に恋をした、可愛い
綺麗で壊れた心の男の子


壊れた心で
一生懸命に
それでも

私のことを
大事にしようと

今の私の状況を
尊重しようと

やけくそにもワガママにもいくらでもなれたあの状況で
がんばって踏みとどまってくれた、彼に

ありがとうと

見せてあげるばかりだったこの恋のなかで
初めて
そう思った