ふゆ 


みんなのいるときはしゃんとするのに、ひとりになるとすぐ泣いてしまう私を
痛々しそうにみていた

いろんなものが遠くに感じられて、私を撫でる手も、気づかう目も、言葉も、
全部白い透明の膜を張ったみたいだった


仕事先で、雷が鳴ったときに一番に思い出す存在が彼女だった


私たちは、いつも一緒だったし、誰よりも強い絆でつながっていて、
それぞれが、一人でも大丈夫なぐらいに強く見えて、
本当は、2人でひとつみたいだった


私と彼女は、たくさんの道を一緒に歩いて、
私は、彼女を腕に抱いたままたくさんのことを感じて、
彼女は私の腕の中で、たくさんのことを感じてきた



眠りすぎてしまったお昼寝のあと、暗くなった部屋の中で心細くなる胸の中に、小さく温かく息をするかたまり


ケージに入れて男の人と寝ていたら怒ってうんちをして、男の人が嫌そうにして、その人とは二度と会わなかったこと
雪の日に喜ぶと思って散歩に連れていったら、足先が冷たくて全然歩けなかったこと
夜の公園で、木の影に隠れてみたら、置いていかれたと思って必死で探していたこと
早寝に慣れたおばぁちゃんのうちで、久しぶりに私がいるから寝たくなくて、目を真っ赤にして必死に起きていたこと

河口湖の小さなボートから、一緒に初めて富士山をみた





それは、とても晴れた休日の朝で、空が眩しくて、これから起こることの全てが嘘みたいだった

彼女は最後の最後まで愛らしくて、美しくて、私の呼ぶ声に、こっそり起きてくれそうな気さえした




必死で、目をつむらせてあげた
これから起こる怖いことが見えないように
大丈夫だよ、目を開けちゃだめだよと言い聞かせながら


大丈夫だよ

あとちょっとだよ





なによりも、なによりも大事な大事だったもの

どんな親友も、男の人も超えられない、私が両手放しで愛した唯一のもの


あの、ごはんを忘れたと気づいた瞬間に、無理を言ってでも戻ればよかったと
彼女が倒れたあの夜に、旅の雰囲気が台無しになっちゃっても病院に連れていけばよかったと
何度も何度も思っては

あんなに大事なものを
私がなくしてしまったんだと思う

あんなに、あんなに大事にしてたのに






ふわふわした頭
やわらかい手のひら
愛おしい目

嬉しいと笑ったみたいになる口も
ちいさなしっぽ


私が心から愛した
ちいさなちいさな可愛いかたまり

この世でたったひとつだけのもの





ふゆ




Fuyu.jpg





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