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香りは永遠に 


久しぶりにKiehl'sのココナッツのリップクリームをつけたら
ふっと
生温かい5月のシアトルの夜の空気が拡がった

匂いは、なによりも唐突に
強烈に記憶を呼び起こす


ココナッツのリップと、市場の人混みとコーヒーと古本の混ざった匂い
傾きかけた太陽の柔らかい光が
観覧車と水面をキラキラと照らす風景が

まるで目の前にあるかのように



15歳の頃の彼がつけていた、ウルトラマリンの香水

原付で通ったピザ屋のトマトソースの匂いと
バイクのオイルの染み付いた白いバン

その香りの傍にいるだけで
何もかもが大丈夫なような気がした

その香りとすれ違うたびに
あの頃に手が届くような気がした



コロンビアの結婚式で、真夜中に何気なくViktor Rolfの香水をつけたら
INSEADの最後の方の、切ない夜の匂いがした

まるで、あの夜に戻ったかのように
バスルームを出たら
いつものように少し酔った皆が、笑って踊っているかのように

当然ながら
外には新しい夜が拡がっていて

でも
匂いは永遠に上書きされない



やがて時が経って、いろいろなことが変わって
思い出さえ、もう切なくなる必要のないものになっていたとしても

匂いだけは執拗に、その時間に留まり続けて
残酷なくらいに唐突に
私たちを時々過去へと連れ戻す



ウイスキーとタバコと
冬の夜の空気と月の匂いを混ぜたら
一年前のあの頃を触ることができるんだろう

たとえもう二度と戻ることがなかったとしても
何度でも戻ることができるんだろう




砂埃と音楽とカオスの中 


砂埃が鼻に詰まって、簡易トイレの匂いも気にならないくらいだった。

朝の3時に友達が
「ちょっとみんなについていけないから早いけど帰るよ」
と言ってテントに帰っていくような、時間のずれた世界。

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一緒に遊んでいた女の子に
"You're amazing!"
と言うと、恋人の方を見て
"I wish she weren't so nice.
We have a real world, right?"
と笑った。

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普通が普通じゃない世界。
それでも、みんなが丁寧に優しい世界。


笑い声がよく響く男の子を見て
"I think he laughs more than he speaks"
と言うと、別の男の子が笑って
"That's not a bad problem to have"
と言う。

ひたすらポジティブな世界。


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空には数え切れないほどの星が低く瞬いていて
手を伸ばせばオリオン座に触れてしまいそうだった。

肩をくっつけて、ふたりで座って朝陽を見ていたら
深呼吸と一緒に、自分の中の欲や嘘が、全部きれいになっていくような気がした。



こうして、いつも試行錯誤ばかりしている私たちがたどり着くのは
こんな地の果てなのかもしれない。

朝陽の中
遠くに音楽を聴きながら
静寂の中
体の一部を触れ合わせて眠る

そんな朝なのかもしれない。


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最後に抱き合う夜 


まだ、なんとか大丈夫だったかもしれないときと
もう、絶対にダメになったとき

その間に
最後に抱き合う夜
というものがあるんだと思う


最後に会うことや、最後の電話、最後のメールなんかはだいたい
たとえ曖昧だとしても、なんとなく、最後の予感を伴う

まだあるかもしれないけど、もう、二度とないかもしれない
でも、会おうと思えばまた会えるかもしれない


話したいと思えばまた話せると
自分をごまかすことはいくらだってできる

たとえ、心のどこかで
それは起こらないと分かっていたとしても



だけど
最後に抱き合う夜

それだけは、どうしようもなく
突然に訪れるものなのだと思う


あるとき
もう二度と抱き合うことはないということが絶対に変わらない事実となり

何気なかった無邪気なあの夜が
最後の夜になる


2人が、まだ2人きりでいた時間
誰よりも近くにお互いを近づけた時間
まだ、2人の先に光があった頃





だから、最後の夜はいつも
思い出せないくらいに当たり前で
温かく、切ないんだと思う






heaven is not too far to touch 


天国が、あとすぐそこにあるのなら
私は、触ってみたい


たとえ、そのあとに堕ちる先がどんなに無限大に深かったとしても
私は、見てみたい

たとえ、curiosity killed the catのネコになったとしても




臆病な彼のためにあると思っていたこの歌が
本当は、ずっと自分に向かって歌われていた歌だったのかも知れないと思ったとき
考えすぎていて、天国に手を伸ばせなくなっていたのは
私だったのかも知れないと思った



My love,
heaven is not too far to touch
you are scared because you care too much
I will never give you up







色づいた世界 

このまま
どちらかが根をあげるか

いつの日か
やっぱり間違いだったと思えることを
心密かに願うか

それしか私たちに選択肢がないのだったら

どうすることが幸せなのかは
簡単な答えなんだろう



そうやって、最高な数年間を過ごしてみるのも
きっと人生のひとつのハイライトになるだろう

今までの人生の全てが
私のハイライトだったように


行かない、と言ってしまったら
私たちは終わってしまうだろう
きっと、諦めてしまうだろう


そうやって
いま、目の前に見えているこの景色が
全て色をなくしてしまうのだとしたら


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